主たる研究活動*
障害児の教育的包摂を検討するときに、インクルーシブ教育と従来の特殊教育とに分け、通常の学校教育だけに目を向けるのでは不十分です。表1に示すように、分析枠組みとして政策、教育・社会福祉実践、当事者・家族の3側面からとらえるとともに、6つの研究視点を据えて、包括的に検討します。
表1.分析枠組みと視点
分析枠組み | 研究視点 |
---|---|
政策 | ・教育・福祉政策 |
教育・福祉実践 | ・インクルーシブ・特殊教育と教職員養成 ・都市部での資源の市場化 ・施設居住・在宅児への福祉の教育機能 ・タミル人集住北部復興・茶園地域の実相 |
当事者・家族 | ・家族の暮らしと教育選択 |
研究活動の報告や研究成果物はこちらをご覧ください。
*JSPS科研費国際共同研究加速基金(21KK0039)の助成を受けて実施しています。
2021(令和3)年度の研究**
インクルーシブ教育が国際的なスタンダートとなる中で、障害者のための特別学校がどのような現状にあるのか、南アジアの2か国、スリランカとブータンを比較しながら明らかにする研究を行いました。
現代のアジア諸国では初等・中等教育が普及しつつあるなかで、障害児の多くは今なお教育にアクセスできていません。これに対し、1994年にユネスコが提唱し2006年に採択された国連障害者権利条約に記されたインクルーシブ教育(IE)により、通常の学校における障害児の教育参加を促進することが国際潮流となっています。しかしながら、とりわけ南アジアでは、宗教を基盤とする民間団体が20世紀前半から障害児の特別学校を開設し、現在もそれらが無視できない役割を果たしています。IEを志向する新たな制度の下で、特別学校の機能をどう位置づけるかが問われていますが、近年IEにのみ光があてられ特別学校が後景化しているととらえられます。このことは、特別学校の教育環境の悪化につながるおそれがあるため、特別学校の子どもを取り残さないIEへの転換についての実証研究が必要だと考えました。
本研究は、スリランカとブータンにおいて、研究代表者の古田弘子(熊本大学)と、共同研究者の櫻井里穂(広島大学ダイバーシティセンター)およびセートゥンガ・プラサード(ペラデニヤ大学)が実施しました。コロナ禍のため現地調査の制限があるなかで、両国の特別学校の歴史、インクルーシブ教育との関係について、熊本大学教育学部紀要第70号(2021年12月発行)に「インクルーシブ教育制度への転換と特別学校の包摂―南アジア2か国,スリランカとブータンに焦点をあてて―」を公開しました。
また、2022年3月7日にオンライン・シンポジウム「特別学校の子どもを取り残さないインクルーシブ教育の探求~南アジア2か国の検討から~」を開催しました。ここでは、両国の特別学校校長らの現状報告をもとに、特別学校のあり方を国際的観点から俯瞰するポール・レンチ(グラスゴー大学)の報告も交え論議を行いました。
今後、スリランカでは特別学校の所管行政組織、教育の質、タミル語校等の実態を、ブータンでは特別学校2校が各県のインクルーシブ教育推進の潮流のなかでどのような役割を果たしているのか、さらに検証していきます。
**2021(令和3)年度平和中島財団国際学術研究アジア地域重点学術研究助成の助成を受けて実施しました。